高血圧患者とMRIにおける脳微小出血痕について
脳微小出血痕(Cerebral Microbleeds: CMBs)とは
脳内の非常に細い血管から、ごくわずかな血液が漏れ出した痕跡のことです。MRIの進歩、特にT2*強調画像や磁化率強調画像(SWI)といった特殊な撮像法によって発見されるようになりました。通常のCTやMRIでは見つけにくいことが多いです。
特徴
- 多くの場合、無症状で、いつの間にか発生していることがほとんどです。
- MRI画像上では、小さな点状の黒い影として映ります。
- 加齢とともに発生頻度が高くなりますが、高血圧が強く関連していることが知られています。
- 多発する場合には、認知機能の低下と関連する可能性が指摘されています。
- 将来的には、脳出血や脳梗塞を発症するリスクが高まる可能性も示唆されています。
高血圧と脳微小出血痕の関連
高血圧は、脳微小出血の最も重要な危険因子の一つです。慢性的な高血圧によって、脳の細い血管壁が脆弱になり、わずかな圧力で破れやすくなると考えられています。
- 高血圧が持続すると、脳の細い動脈に動脈硬化や血管壁の変性(リポヒアリン変性)が生じやすくなります。これにより、血管がもろくなり、微小な出血が起こりやすくなります。
- MRIを用いた研究では、高血圧患者さんで脳微小出血の発見率が高いことが報告されています。
- 脳微小出血の分布も、原因によって特徴がある場合があります。高血圧性の脳微小出血は、脳の深部(基底核、視床、脳幹など)に多く見られる傾向があります。
MRIにおける脳微小出血痕の意義
MRIで脳微小出血痕が発見された場合、以下のような点が考慮されます。
- 脳血管病変の指標: 脳の細い血管に何らかの異常が起きている可能性を示唆します。特に高血圧による血管障害のマーカーとなることがあります。
- 将来の脳卒中リスクの評価: 脳微小出血の存在は、将来的な脳出血や脳梗塞のリスクを高める可能性が指摘されています。
- 認知機能低下との関連: 特に多発性の脳微小出血は、認知機能、特に実行機能や注意力の低下と関連する可能性が報告されています。
- 治療方針への影響: 抗血栓薬(抗血小板薬や抗凝固薬)を使用している患者さんで脳微小出血が見つかった場合、出血のリスクを考慮して慎重な投与が必要となることがあります。
脳微小出血痕が見つかった場合の対応
脳微小出血痕が見つかった場合、重要なのは高血圧をはじめとする脳卒中のリスク因子を適切に管理することです。
- 血圧管理: 適切な降圧治療を行い、血圧を目標値にコントロールすることが最も重要です。
- 生活習慣の改善: 禁煙、節酒、適切な食事、適度な運動などを心がけ、生活習慣を改善することが大切です。
- 他のリスク因子の管理: 糖尿病、脂質異常症などの合併症がある場合は、それらの管理も徹底します。
- 定期的な経過観察: 必要に応じて、定期的にMRI検査を行い、脳微小出血の変化や新たな病変の出現を確認することがあります。
- 抗血栓薬の慎重な使用: 抗血栓薬を使用している場合は、医師と相談し、出血リスクと血栓塞栓症のリスクを慎重に評価した上で、治療方針を決定します。
脳微小出血痕は、それ自体が直接的な症状を引き起こすことは少ないですが、脳の血管の状態を示す重要なサインです。見つかった場合は、過度に心配せず、医師の指示に従って適切な管理を行うことが大切です。高血圧の持病がある場合には、降圧剤内服だけにとどまらず、MRIにおける脳内精査を受けることをおすすめします。